筋骨格系のキネシオロジー

0 経緯

リハビリテーションで水泳にはっまてから,かれこれ5年に近付いています.最近は,スイミング・クラブに入り,ひょんな事からバタフライのクラスでヒイヒ イと練習しています.そこで,クロールとバタフライの違いを,体と頭で理解するために,再度,水泳の本,「Swimming  Fastest」と,これからご紹介する「筋骨格系のキネシオロジー」を勉強しています.

この本は,素人目にも「内容がしっかりしている」のは判るものの,自分の頭で理解できるかどうか自信がありませんでした.でも,バタフライでの「腕のスト ローク」での肩甲骨や肩関節(正確には,肩甲上腕関節)の復習として,熟読を始めました.すると,説明文は,ただ難しい単語が羅列されているのではなく, 対応する図面がとても判り易く,見やすい(怖くなく自然にみえる)し,図がどの視点で描画されているかの記入があるのです(多くの専門書では、そのような 記述は無視されています).以下に,素人の目で見て,興味深い点をご紹介します.

0.1 書誌情報

書名:筋骨格系のキネシオロジー
著者:D.A.Neumann著
訳者:嶋田 智明,平田 総一郎・監訳
出版:医歯薬出版,2006-01,東京都文京区
ISBN: 4-263-21287-8

1 水泳に関係する部位の運動

水泳の運動は,腕ストロークと脚ビートに分かれる.またこれらの基盤である胴体;脊椎,肩甲骨,骨盤などがある.これらの関係を大雑把に理解することが水泳を考える為に大切と思う.

1.1 上腕と肩甲骨の運動

水泳では掌で発生する推進力が重要だ.その掌をドライブする基盤となるのが「上腕」とその接続先の「肩甲骨」である.

これに対応するのが,本書では,第2部 上肢/第5章 肩複合体,pp99-142 です.ちなみに,上肢に含まれる他の章を示しますと;

第5章肩複合体
第6章肘と前腕複合体
第7章手根
第8章
付録上肢の筋の神経支配と付着に関する参考資料

1.1.1 肩甲上腕関節の運動学,p120

  • 手始めに,肩関節(肩甲上腕関節)に対する上腕骨の動きを示す図を引用します.
    図5-30
    図5-30 上腕骨の通常の骨運動を示した右肩甲上腕関節.
    運動は外転・内転(赤),そして屈曲・伸展(白),内旋・外旋(灰)である.
    それぞれの運動軸は対応する運動面と同じ色づけをされていることに注意せよ:
    すなわち内側・外側軸は白,垂直すなわち長軸は灰色,前後軸は赤である.

1.1.2 肩甲上腕関節における転がり-滑り関節包内運動の重要性 p121

  • ここでも,通常の解剖学書では,触れられていない上腕骨頭の回転運動(転がり運動)と,転がりに伴う並進運動をキャンセルする逆並進運動(滑り運動)とを説明している.私もまだ,完全に理解していないのでその図5-31を下記に引用します.
図5-31
図5-31 自動的外転の際の右肩甲上腕関節の関節包内運動.
上腕骨頭を上方に転がす収縮方向の棘上筋を示す.
引き伸ばされた下関節包靱帯(ICL)によりハンモックのように上腕骨頭が支持されるのが示されている.
上関節包靱帯(SCL)が付着している棘上筋の収縮で引っ張られ, 相対的に緊張を保持することに注意せよ.
伸張された組織は長い黒の矢印で表されている.
  • この図から想像されるように,例えば(下記の例はmNejiの意見);が起こると,
    ・下関節包靱帯(ICL)が伸びにくくなったり,
    ・上腕に外転だけでなく,外力が加わったり
  • 本文にあるように,
    • 上腕骨頭が硬い烏口肩峰アーチとの間に棘上筋,その腱,そして滑液包を挟み込む( インピンジメントimpingement: 衝突衝撃侵害)原因を作る.このインピンジメントは痛みを伴い外転の継続を制限する.健常な肩の生体内X線計測により,肩甲面での外転では上腕骨頭は,基本的に静止しているかほんのわずかの上方並進が生じるのみだということが明らかにされている.

1.1.3 前額面での外転 VS 肩甲面での外転: p123,図5-34

  • 下図こそは,この本と他の本との違いを示していると思います.
    p123 図5-34
    p123 図5-34拡大
    図5-34 真の前額面(赤の矢印)における外転(A)と肩甲面(灰色)における外転(B)を比較した右肩甲上腕関節の側面像.
    A,Bとも関節窩(かんせつか:肩甲骨側の凹み部分)は肩甲面を向いている.
    烏口肩峰アーチの相対的低点と高点が示されている.
    烏口肩峰アーチを通過している棘上筋の力線がBに(赤く)表示されている.
  • mNejiの経験としては,下記のようですが,この図を拝見して,とても気が楽になりました.
    • 図Aは,腕を左右方向に広げていく場合(前額面での運動→§3.1.1の図1-4・前額面)を示しており,実際にご自分でやると判るように,水平ぐらいまでで腕は止まってしまいます.まさに上腕骨頭が烏口肩峰アーチに衝突(インピンジンメント)を生じているのである.
    • 図Bは,腕を斜め前方に広げていく場合( 肩甲面での運動→§3.2.2の図5-4・肩甲面)を示しており,実際に動かすと,スムーズに天井を指差せます.
  • この部分の原文説明(p122とp123にまたがる)を完全に引用させていただきます;
    前額面の外転と肩甲面の外転との間の機能的相違は以下の例により説明できる.純粋な前額面で意識的にいかなる外旋も伴うことなしに肩を最大限外転すると仮定してみよう.この運動を一生懸命継続しようと試みてもそれは困難でありまた不可能でもある.それは上腕骨の大結節注)が肩峰下空間の内容物を烏口肩峰アーチの低点を圧迫するからにほかならない(図5-34A).外転を前額面で完全に遂行するには,外転に上腕骨の外旋が組み合わさる必要がある.これにより突出した大結節が肩峰突起下面の後縁をすり抜ける事が補償される.
    次に肩甲面で腕を最大外転してみよう.この外転では肩を外旋することなしに運動を完遂することができる.肩甲面の外転では大結節の先端は烏口肩峰アーチの比較的高い点に位置するので,その結果,インピンジメントは避けられる(図5-34B). 肩甲面の外転はまた自然に後捻した上腕骨頭をよりまっすぐ関節窩に向け適合させる.棘上筋の起始と停止は一直線上に並ぶ.前額面の外転と肩甲面の外転との 間のこれらの力学的相違は肩の機能障害を有する患者,とくに慢性的なインピンジメントが疑われるケースの評価や治療の際考慮するべき点である.
  • 上記の分析は,水泳での腕ストロークを,安全に,かつ効果的に運行するべき指針を与える可能性があると思う.
    • それこそ,天才的なスイマーを対象に,その体の運行を計測して,望ましい運動軌道を求め,
    • 3Dの筋・骨格モデルと比較することで,原理的に理想的な運動軌道のための体使いを算出する.

2 水泳での解釈

>2.1 平泳ぎでのインピンジメント症候群

§1.1.3 前額面での外転 VS 肩甲面での外転 での説明から,ある程度上腕が体の前方向を向いていたり,内旋していると,上腕骨頭の大結節が烏口肩甲突起下面と衝突する事は無いように思われる.

ただ,自分の経験でも,平泳ぎを長時間(50min程度) 連続して泳げるようになって,さらに我武者羅に泳いでいたら,

  1. 強い腰痛,
  2. 大胸筋,前鋸筋が張れて強く痛み,
  3. 肩のエッジが軽く痛い,
状況になった.有能な整形外科で見ていただき,1ヶ月ほど水泳を休み,その後,1年ほどはクロールだけにした.また,平泳ぎは軽く泳ぐように勤めている.

しかし,最近はクロール,背泳ぎ,バタフライを体験しているが,衝突性(インピンジメント)症候群には出会っていない.やはり平泳ぎのだけが衝突性(インピンジメント)症候群になりやすいのではなかろうか.おそらく;

  • 平泳ぎの椀ストロークの運動距離が,他の泳法の場合のそれと比べ短いので,
  • 推進力を高くするために,無意識に
    • 肘を横方向に張り出して,結果として
      • 図5-34A衝突軌道に入っているのではないか?
逆に、全ての泳法に共通と思えるのですが,上腕が肩のレベルに近い時は;

  1. 所謂ハイ・エルボウを作り,肘角度が広がらない為に,十分な「内旋」を加えているのを確りすれば,図5-34Aでも衝突しない,
  2. または,内旋しながらも,上腕を前方に向けると図5-34Bになり,より安全になる.
    優秀な平泳ぎの選手の肩の構造を、MRIなどのデータ・ベースとして国立の運動の研究所などで計測して行けば、オリンピック選手の育成に役立つかも知れませんね。
今度,「平泳ぎ基礎」のクラスの時に確認したい.

2.2 椀ストロークでの腕ストレッチ :構想中 [2007-09-25 (火) ]

2.3 バタフライでの胴体の運動 :構想中 [2007-09-25 (火) ]

3 参考になる図

水泳の論議に関係しそうな図面を引用させて戴きます.

3.1 全体

3.1.1 人体の基本面:水平面・矢状面・前額面 ;p6 図1-4

図1-4 人体の基本面
矢状面:左右分割面
前額面:前後分割面
体軸:矢状面と前額面との交線
p6 図1-4

3.2 上肢の関連

3.2.1 右肩複合体を構成する関節; p100,図5-1

  • 図5-1 右肩複合体を構成する関節
    p100 図5-1
    • 胸鎖関節(きょうさ かんせつ): sternoclavicular joint. → p106.
    • 肩鎖関節(けんさ かんせつ): acromioclavicular joint. → p109.
    • 肩甲上腕関節(けんこう じょうわん かんせつ): glenohumeral(GH) joint.→ p114.
      • 肉単:X 関節,p102,p104
        • 肩甲上腕関節 = 肩関節(けん かんせつ):shoulder joint. p104.
    • 肩甲胸郭関節(けんこう きょうかく かんせつ): scapulothoracic joint.→ p105.
      • 肉単には記述なし.
        • この部分には,通常の関節のように骨と骨が構造として接触していない.
        • 少なくとも肩甲骨の全面には肩甲下筋が付いていて,その筋を包む筋膜が肋骨系との間の潤滑的な作用をしているだろう.p137,図5-54も参照のこと.
  • 骨の名称と図中での彩色
    紫色上腕骨humerusp145
    淡紫色上腕骨頭head of humerus(骨単 p68)p103
    空色肩甲骨scapulap102
    鶯色鎖骨claviclep100
    青緑色胸骨sternump100

3.2.2 解剖学的肢位における両肩の上面像;p101,図5-4

  • 図5-4 解剖学的肢位における両肩の上面像.
    A:鎖骨は前額面に対して約20°後方を向く.
    B:肩甲骨は前額面に対して約35°前方を向く.
    C:上腕骨の後捻は肘の内側・外側軸に対して約30°である.
    右の肩甲上腕関節の上面を露出するために右の鎖骨と肩峰は除去してある.
    p101 図5-4

3.2.3 右肩甲骨の後面と前面; p102,図5-5

図5-5 右肩甲骨の後面(A)と前面(B).
p102 図5-5

3.2.4 右上腕骨の全面と上面;p104,図5-8 :<上腕骨頭の大結節>

図5-8 右上腕骨の全面(A)と上面(B).
p104 図5-8

このページの履歴

  1. 開始 2007-09-23 (日) 16:00, mNeji, §0 経緯,§1 肩関節での上腕の動き
  2. 追加 2007-09-24 (月) 23:32, mNeji, §2 解剖学的な関連図,§3 上肢関連
  3. 修正・追加 2007-09-25 (火) 20:33 mNeji, 章立て変更,「水泳での解釈:工事中」を追加.
  4. 追加 2007-09-25 (火) 22:13 mNeji, §2.1 平泳ぎでのインピンジメント症候群
  5. 修正 2007-09-25 (火) 23:20 mNeji, §2.1 平泳ぎでのインピンジメント症候群
  6. 修正 2007-09-28 (金) 23:04 ,mNeji, §3.2.1 右肩複合体を構成する関節; p100,図5-1 着色した.
  7. 仮移動 2011-06-06 (月) 21:07 mNeji → mNeji's Notes on exercise, Figs open.

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